短  歌

 

 1970年、桑原浜子先生は山梨県東八代郡境川村藤垈にて「藤垈歌会」を始められました。そして境川村の皆さんと一緒に30年以上にわたって、自然や暮らしを見つめながら短歌を作り続けておられます。一時は50人ほどの参加者がいましたが、現在は24人くらいで、ひと月に一度、桑原先生の自宅で歌会が開かれます。
 「偉い先生がいないので、気取らないで思っただけのことを知っている言葉で詠います。うまい歌は作れません。でも、自分の思ったこと、自分の周りの出来事を素直に正直に作るというのが会の約束。それが自分史になります。歌は作ったときのことをまざまざと思い出させるので、皆嬉しがっていますよ。本当の歌は心を開かなければ作れません。歌を作るという中に自分をさらけ出します。世界で今なお続く戦争を前に、自然詠は出来なくなってしまいました。このような世の中のことを考えるとモザイクなんていうものをしてもしようがないと思いますが、これはもう病気で、しなくてはいられません。」と桑原先生。
 先生は裏が白い広告の紙を切って綴じ、歌会の皆さんに渡されます。皆さんはそのノートと鉛筆を畑に持って出かけ、農作業をしながら思いついた歌を書き留めるそうです。この「藤垈歌会」の他に、先生は「みちしば」、「氷河」の同人でもあられます。

 2004年5月、山梨県民会館において開催された「桑原浜子・安藤彩子 二人展」では、卵殻モザイクの作品と共に短歌も展示されました。ここでは、その時の短歌を紹介します。

   ・朝毎に糊つぎ足してモザイクを
              始める時のときめき心 

   ・故里をこの美しき甲斐にもつ
              吾が仕合わせをしみて思う日

   ・苔を見れば苔にも小さき花ありて
              自然ことごと命あふるる

   ・木々根づきもろもろの花咲きみちて
              茄子も胡瓜も庭の一員

   ・健司逝き ちのゑさん亡き藤垈に
              春くれば春夏くれば夏

   ・枯草のぬくきに座して目翳する
              遠雪山に人を恋ふるも

   ・庭をおおう一樹の桜君の桜
              散りつくすまで見納めんと思う

   ・夫は逝き友又逝きて西山の
              至福の旅は「涙」となりぬ

   ・憎らしき事言いたりし亡き夫を想う
              時に恋しくてならぬ時あればに

   ・つくづくと人は死にたりまじまじと
              われ生きてあり翁草咲く

   ・天国に吾を待ちくるる人あまた
              逝くときまでを励みて生きん

   ・久に来し孫どこやらの成長は
              「よき友」を得しことのようなり 

   ・ゆき昏し20世紀の終末を
              ガイドラインの嵐吹き荒ぶ

   ・2000年ひい孫とまどい居て
              ひたに思うこと世界中の子にこの幸せを

   ・君が代を唄い 日の丸ふりかざし
              いづこ目指すや21世紀

   ・「衣食足り」礼節失することあるか
              富みて貧しき心のあれど

   ・ゆく雲を茫と眺めていたりけり
              アフガンのニュース心に傷く

   ・美しき甲斐のもみじに慰さまぬ
              心よ今日もアフガンのニュース

   ・「オバアチャン」「ウンウン」「バイバイ」それだけの
              ひ孫の電話あゝ百万言

   ・世の中すべてこの子らのように幸あれと
              曾孫いだきてあふれくるもの

   ・車椅子に励まされしと励まされ
              励まし合いて反戦の鎖

   ・逝くもよし留るもよし90の
              日々好日を何処にいやせむ

   ・戦前戦中戦後見て来し90年
              語り部とならん戦争の惨

   ・ピーアクションのデモに並びて90の
              はるばると来し命を憶ふ

   ・花にこもりモザイクに遊ぶ春が来る
              戦争だけは来ないで下さい

   ・テロを受ける謂れは無きやアメリカの
              飽くなき覇権に耐えざりし人ら

   ・テロと言い反撃といいつづまりは
              無辜の人らに死と飢餓を強う

   ・足なえを倖せとしもどっしりと
              1日を花の降る中にいて

   ・白き風 颯(さ)と吹き過ぎて一群の
              穂草なびかせ晩夏光の中

   ・「きねや」という団子やの名前思いだし
              何やら安堵し眠りに落ちし

   ・よき友と食べしおさしみうまかりき
              好物にしてまことうまかりき

   ・何もかもうちやらかしてうから四人
              桃李桜と酔いしれし1日

   ・野に山に四季それぞれをときめきて
              對(む)きし一生モザイクありて

短歌: Copyright 2004 Hamako Kuwabara. All rights reserved.


桑原浜子の世界ー卵殻モザイクを育ててー
桑原浜子先生の短歌です