き残るために

 傷を受けた右太股が熱を持って痛む。
 治療を怠ったため、化膿が進んでいるようだ。
 だが、絆創膏一つないこの場所では、治療などできようはずがない。

 おそらく、もう数日で私は動けななくなるだろう。
 そうなれば、魔物の餌になるだけだ。
 その前に、せめて私が得た知識だけは書き残しておく。

 願わくば、これが後の者の助けとならんことを。





1.まず持ち物の確認を

 当たり前のことだと思うかもしれないが、当たり前すぎて忘れてしまう者も居る。
 だから、まずは自分が何を持っているか、しっかりと頭に入れることだ。
 ひょっとすると予想外の物が、鞄の中に紛れ込んでいるかもしれない。
 時としてそれは、昔の苦い思い出を掘り返すだけの物でしかないかもしれないが。





2.殺せる魔物を見極める

 魔物を見つけると、何でも構わず殺そうとする者も居るが、やめておいた方がいい。
 時として、奴らの中にとんでもなく強いのが混じっているからだ。
 そんな奴は、見た目がほとんど同じでも、変異した魔物は桁違いの強さを持つ。
 それでも、奴らに「群れる」という習性が無いのが唯一の救いと言えるかもしれない。
 もっとも、本当に強い奴は深い階層にまで潜らないと出てこないので心配ないが。





3.魔物から身ぐるみを剥ぐ

 我々は殺した獣から毛皮を剥ぐのと同様に、魔物の持ち物を奪う。
 もちろん、これは良いことではないだろう。だが、それしか糧を得る手段はないのだ。
 何度も何度も殺して、身ぐるみを剥ぎ、己を鍛え強くなっていく。
 だが、有用な物はそうそう魔物からは奪えるものではない。
 それ故に、有用な物が手に入るまで粘れば自ずと強くなっていることだろう。





4.収支を計算する

 家計簿を付けたことがあるだろうか。要はそれと同じだ。
 一見すると順調に進んでいるように見えて、実はどんどん不利になっている。
 そんな理不尽なことが、この世界では度々起こりうるのだ。
 それを防ぐためには、頻繁に持ち物を確認してその数を数えることだ。





5.装飾を身につける

 先人の残していった装飾品の多くは、追いつめられて死んだ結果、壁際に残っている。
 これらの恩恵を少しでも受けたいと思うならば、壁際を探し歩くと良いだろう。
 しかしながら、意地の悪い輩も居るもので、大抵は楽には手に入らないので覚悟することだ。
 また、これらの中には特殊な効果を発揮する物もあるという。
 そういった物は、手にすれば一目でわかるそうだ。





6.慎重に行動する

 ここでは、いくら慎重に行動し過ぎても、し過ぎたことにはならない。
 なぜなら、いざという時に自分以外に助けとなるものが何もないからだ。
 店屋もホテルも病院もない。あるのは簡素でただっ広いフロアだけだ。
 だからこそ、慎重な行動が必要だ。
 うまくいかなければその場に留まって延々と戦い続けたり、やり直すことも必要となるだろう。
 とにかく、方法は何でも良い。自分に合った方法で、慎重に進むことだ。















 余計なお世話かもしれないが、私の得た装飾品の手掛かりについても記しておく。
 誰かを頼ることは恥ではない。感謝しないのが恥なのだ。少なくとも私はそう思っている。
 辛くなったらやめても良い。無理に進む必要などないのだから。

 たとえ臆病者と言われても、死んでしまえば心身の苦痛さえ感じることもできない。

階層 番号 手引(反転表示) 解(同左)
1 1 各位の数値を反転 8015
3 2 デジタル数字で書いてひっくり返す 5986
5 3 合計した一の位 0692
7 4 意味があるのは文字数 4848
9 5 まぎらわしいだけ 4768
11 6 トランプでの順序は関係ない 1917
13 7 漢数字で書いてみると 1254
15 8 ローマ数字に置き換えると 7932
17 9 アナログ時計 9158
19 10 順序を同様に入れ替え 9653
21 11 二進法と平方根 0173
23 12 「棒」は何本? 3221
25 13 ワッカの数は? 2101
27 14 一つの記号を数えるだけ 9386
29 15 グラフにしてみると 6009
31 16 数字だけを読む 5214
33 17 頭文字だけを読む 1654
35 18 ある記号の数のみを見る 5120
37 19 その階層数を並べ替える 0073
39 20 ある神話の神の名
「始まりの書」に手掛かり
アルテミス
39 21 日本のある昔話の姫の名
※上記入手前に入力で入手
カグヤヒメ


 最期に一つ忠告しておこう。
 この戦いの結末がハッピーエンドになるとは思わないことだ。
 「彼女」を殺したところで、生まれてしまった魔物は自己増殖を繰り返して増え続ける。

 少なくとも私は、看守を殺して刑期の短縮に成功した罪人の話など聞いたことが無い。